国立大学法人 京都大学では、学認クラウドゲートウェイサービスのグループ管理機能を活用して、学内の教育研究活動データベース/学術情報リポジトリへの代理入力を行っています。その背景と取り組みの概要について、京都大学 情報環境機構 IT企画室 学術情報メディアセンター 教授 梶田 将司氏、同 特命准教授 古村 隆明氏、同 准教授 青木 学聡氏にお話を伺いました。(インタビュー実施:2020年2月10日)
梶田氏:学内情報基盤の企画・整備や各種のサービス提供などを担う当機構は、2005年4月に全学支援機構の一つとして設置されました。その後幾度かの組織改編を経て、現在は専任教員からなるIT企画室と、職員からなる企画・情報部が連携して、全学ITサービスの企画・設計・運用を行う形になっています。本学では、「情報資源の有効活用、ディペンダビリティの確保」「世界的な標準技術の採用」「高度な双方向コミュニケーションの実現」「教育や研究のための多元的表現の支援」「本務の最先鋭化・強化」などを目的とした「京都大学ICT基本戦略」を掲げていますので、当機構もこれに添った形で様々な施策を進めています。
梶田氏:たとえば、私が部門長を務める教育支援部門では、学内のクライアントやBYOD/VDI環境、遠隔講義システム、LMSなどの整備を行っています。また、かつてはオンプレミス環境で構築していた学生向けのメールを外部サービスに移行するなど、クラウドの活用も進めています。教育用のICT環境は授業がある時にしか使われませんので、リソースを柔軟に追加/削除できるクラウドは教育向きだと感じます。
青木氏:研究支援部門では、主に学内プライベートクラウドの運用を担当しています。ユーザーからの要望に応じて、仮想マシンや仮想Webホストを払い出すといった内容です。それ以外に、学術情報メディアセンターが保有するスパコンの運用なども手がけています。現状では、必要な人に必要なサービスを提供するという色合いが強いのですが、今後はもっと学内の研究活動を後押しするような方向にシフトしていきたい。古村先生が部門長を務めるシステム・デザイン部門とも協力しながら、いろいろな取り組みにチャレンジしているところです。
古村氏:現在のグループ情報管理における課題として、「認証」は統合されてきた一方で、「認可」の統合が進んでいないという点が挙げられます。その人が誰であるのかは分かっても、どのシステムやデータを使えるのかまでは統合管理できていません。認可の基準となるグループ情報は、それぞれの業務システムごとに個別に管理されているケースが多い。他のシステムで使いたいときは、その都度コピーするしかありません。こうした状況を、何とか解決できないかと考えたのがきっかけです。
古村氏:本学の教員は、研究者総覧に研究業績を登録することになっています。しかし多忙などの理由から、秘書や共同研究者が代理入力できるようにしてもらいたいというリクエストが多かったのです。これを実現するために、教員とその代理入力者を1つのグループとして管理する方法を考えました。その実装方法をいろいろ模索しているうちに、当時はGakuNin mAPサービスとして提供されていた、学認クラウドゲートウェイサービスのグループ管理機能に辿り着いたというわけです。代理入力という用途に特化してグループ管理機能を利用するのはユニークだということで、NIIにも協力してもらうことができました。
古村氏:運用開始当初は、「researchmap(V1)」「京都大学教育研究活動データベース」の2システムで、代理入力者情報の共有を行いました。その後、京都大学附属図書館の管理する「京都大学学術情報リポジトリ」にも共有先を広めました。環境構築面での工夫としては、NIIのクラウドゲートウェイとは別に学内ローカルのクラウドゲートウェイを用意した点が挙げられます。技術的には学認クラウドゲートウェイサービスだけで認可を行うこともできますが、researchmapのような全国向けのシステムだけでなく、学内のローカルシステムからもグループ情報を参照したかった。また、本学の代理入力者情報は学内で閉じた方が良いだろうとの議論もあり、グループ管理機能だけのサブセットを導入することにしたのです。
古村氏:代理入力者の情報を管理するという点では、十分に狙いを果たせたと考えています。現在では、附属図書館の他、京都大学化学研究所のデータアーカイブシステムでもこの情報を共有する準備中です。ただし、新たな課題もいくつか見えてきました。たとえば、researchmapの新バージョンで同様の仕組みが実装されたため、こちらへの適用は廃止しました。また、ローカルクラウドゲートウェイの導入も結構敷居が高いですね。NIIの開発しているクラウドゲートウェイの機能のうち、本学はほんの一部しか利用していませんが、共有のソースコードを利用させて頂いているので、利用している機能の割に設定は複雑だと思います。サブセットを用意すると他の組織でも利用しやすくなると感じています。より多くのシステムの認可を統合していこうと思うと、それぞれのシステムに対する操作権限などもきめ細かく管理する必要があります。
古村氏:学認RDMの利用においても、グループ管理機能は必須となります。ローカルクラウドゲートウェイと学認クラウドゲートウェイを連携させることで、こちらにもうまく対応していきたいと考えています。また、個人向けの通知機能が実装されれば、学生向けポータルとしての活用も検討していきたいですね。
青木氏:学認クラウド導入支援サービスで提供される「チェックリスト」は非常に役立っていますよ。学外のサービスを利用したいという要望があった際には、これを提出してもらって審査しています。同様のものを自前で作るとなると大変な労力が掛かりますから、こうしたリストが用意されているのはありがたいですね。
梶田氏:情報基盤の整備を進めていく上では、様々な仕組みを共通化することで効率を上げることがポイントとなります。しかし、個々の大学内で集約するレベルのスケーラビリティでは、もう限界に達しつつあります。今後は大学の枠を超えて集約化を図らないと、規模のメリットも思うように働きません。是非NIIには、学術分野におけるプラットフォーマーとして、クラウドに関わる様々なサービスを提供してもらえればと思います。